インプラント治療の実施後は一時的に腫れが出るものの、インプラントが顎骨に固定されるにつれて、痛みや炎症は収まるケースが大半です。
しかし、患者が持つ疾患や生活習慣、インプラント素材などによっては、拒絶反応が起きる場合もあることをご存じでしょうか?
そこで本記事では、インプラント治療の特徴や流れ、拒絶反応が起こるケースなどを紹介します。治療後に腫れた場合の対処法についても解説しますので、インプラント治療を検討している方はぜひ参考にしてみてください。
<h2>インプラントの治療の特徴や流れ</h2>
Q:インプラント治療の特徴を教えてください。
A:インプラント治療は失った歯や顎骨、または顎顔面の欠損に対して、人工歯根(インプラント)を埋入する手術を行う治療です。
埋入されたインプラントを支えとして義歯やエピテーゼを固定すると、顎顔面の構造的、機能的回復が図れます。それだけではなく、固定後は審美的にも改善が期待できます。
また、定期的なメンテナンスを行えば長期的な維持が可能であることも特徴的です。
(出典)
1.歯科インプラント治療方針 日本歯科医学会編
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-01.pdf
Q:どのような流れで治療が行われますか?
A:インプラント治療は、患者の口腔と身体を検査してから実施されます。
まずは医療面接後に患者の手術前検査を行い、顎の状態を確認します。そして、検査結果と基礎疾患と生活習慣の情報も加えて、手術の適応可否を判断する仕組みです。
その後は、患者の同意(インフォームド・コンセント)を得たうえで、一連の治療が始まります。
より具体的にいうと、以下の流れです。
- インプラント体埋入手術
- 装着
- 調整
- 治療後のメンテナンス
上述の通り、手術後は通院でインプラントと歯茎の状態をチェックします。インプラントと骨が固定されるまでの治癒期間を設けたのち、人工歯を装着・嚙み合わせ調整を行って治療完了です。
(出典)
1.歯科インプラント治療方針 日本歯科医学会編
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-01.pdf
Q:インプラント治療の成功率はどのくらいですか?
A:インプラントの10年での残存率は年間では92〜95%と報告されています。
こちらは、インプラントを顎骨に固定してから10年、20年後の歯の状態を確認し、インプラントが残存していた割合を成功率としたときのデータです。
また、患者を対象としたアンケート調査では、「インプラント治療後に何年もつか? 」との質問に対して20年との回答が最も多いとの報告があります。
ただし、患者の疾患と生活習慣によっても成功率(10年後、20年後の残存率)は変わってくるので、その点には要注意です。
(出典)
1.歯科インプラント治療方針 日本歯科医学会編
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-01.pdf
<h2>インプラント治療で拒絶反応が起こるケースがある?</h2>

Q:インプラント治療で拒絶反応が起こるケースはありますか?
A:はい、インプラントは身体に異物とみなされてしまうこともあり、手術後に拒絶反応を起こすケースがあります。
たとえば、以下の特徴に該当する方は、インプラントが骨と結合しにくく、治癒が遅くなったり炎症のリスクが高くなったりします。
- 糖尿病
- 高血圧
- 骨粗しょう症
- 喫煙習慣あり
インプラント治療を受ける際は、自分の持病や生活習慣を振り返り、拒絶反応のリスクが高いかどうか事前に把握しておくと安心です。
(出典)
1.歯科インプラント治療方針 日本歯科医学会編
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-01.pdf
2.厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」歯科インプラント治療のための Q&A 平成 26 年 3 月 31 日 日本歯科医学会厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」 歯科インプラント治療の問題点と課題等 作業班
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-02.pdf
Q:拒絶反応の原因を教えてください。
A:拒絶反応を起こすと考えられる原因は以下の通りです。
- 金属アレルギー
- 基礎疾患(例)糖尿病、骨粗しょう症、貧血、高血圧)
- 薬剤の服用
(1)ビスフォスフォネート系薬剤服用患者
(2)抗血栓療法を受けている患者
(3)ステロイド薬服用患者
- 喫煙
たとえば金属アレルギーの場合、インプラントの素材(チタン)に反応します。患者の体が素材となる金属に適合しないのが、拒絶反応の原因です。
また、患者に特定の基礎疾患がある場合、インプラントが骨と結合する際に、治癒不全が起きて細菌に感染しやすくなります。要するに、インプラントが骨と結合しなくなるのが原因です。
そのほか、一部の薬剤を服用している患者や、喫煙習慣のある患者でも、拒絶反応が起こる場合があります。
(出典)
2.厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」歯科インプラント治療のための Q&A 平成 26 年 3 月 31 日 日本歯科医学会厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」 歯科インプラント治療の問題点と課題等 作業班
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-02.pdf
3.インプラント治療9年後にインプラント周囲炎とチタンアレルギーを発症した1例
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsodom/31/3/31_240/_pdf
Q:拒絶反応が起こった場合どのような症状が出るのですか?
A:拒絶反応が起こると、たとえば以下の症状が引き起こされます。
- インプラント周囲炎
- 補綴修復物(上部構造)の破損・破折
- インプラント体の動揺
- 埋入手術後のインプラント体の脱落
- インプラント体の破折
- 知覚麻酔、痺れ
拒絶反応が起こった場合は、症状の度合いにより、インプラント周囲の治療を行います。症状が弱い場合は、患部を洗浄して清浄度を保ち、経過観察をするだけで済むケースも多いです。
一方で、症状が進行している場合、インプラントと骨との結合が弱くなるため危険な状態です。
それに加えて、埋め込んだインプラント周囲が炎症を起こし、インプラントが神経に接していると、知覚麻酔と痺れを伴います。
放置しているとインプラント自体が動揺や破損、脱落してしまう可能性があるため、早急な対処が必要です。
(出典)
1.歯科インプラント治療方針 日本歯科医学会編
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-01.pdf
Q:拒絶反応が起こるとインプラントは抜けてしまいますか?
A:はい、インプラントが抜けることもあります。
拒絶反応が起こっている場合、インプラント体と骨の結合が外れている状態です。つまり、インプラントが骨から抜けやすくなっています。
この状態で噛む力が加わると、インプラントが動揺したり歯茎に炎症が起きたり、周りの組織が損傷したりする場合があるわけです。
ちなみに、インプラント体と骨が結合した状態(オッセオインテグレーション)であるかどうかは、光学顕微鏡でインプラントと骨の接触度合いを確認すれば判断できます。
(出典)
1.歯科インプラント治療方針 日本歯科医学会編
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-01.pdf
Q:拒絶反応が起こりにくい素材はありますか?
A:はい、あります。具体的にいうと、拒絶反応が起こりにくい素材はジルコニアです。
インプラント治療では、ほとんどがチタン製のインプラント素材を使用しています。しかしながら、インプラント素材中のチタン純度によっては、金属アレルギーによる拒絶反応を引き起こす場合があるのです。
一方で、ジルコニアはセラミックスのため、金属アレルギーによる拒絶反応が起こりにくいといわれています。チタンと同様に生体への親和性も高いため、治療リスクをできる限り抑えたい場合、ジルコニアを選ぶのがおすすめです。
(出典)
4..薬生発 1102 第 10 号 令 和 4 年 11 月 2 日 各都道府県知事 殿 厚生労働省医薬・生活衛生局長 ( 公 印 省 略 ) 歯科用インプラント承認基準の改正について
https://www.pmda.go.jp/files/000248850.pdf
5.セラミック製歯科用インプラントに係る評価指標の策定
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001211787.pdf
<h2>拒絶反応で歯茎が腫れた場合の対処法</h2>

Q:拒絶反応が起こった場合どのような処置が行われますか?
A:腫れの程度に応じて、インプラントの撤去や洗浄など、さまざまな処置が行われます。
たとえば、インプラント周囲炎が進行していない場合は、患部と組織周辺を洗浄するだけで済みます。
ですが、症状が進行している場合はインプラントを撤去し、患部を洗浄して清潔に保つ必要があります。そのため、再手術をする場合は、患部が治癒してから行わないといけません。
(出典)
1.歯科インプラント治療方針 日本歯科医学会編
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-01.pdf
Q:歯茎が腫れた場合の対処法を教えてください。
A:拒絶反応が起きているかどうかによって、対処法は大きく異なります。
インプラント治療後の腫れは、手術に伴う自然な反応である場合と、拒絶反応によって引き起こされる場合があります。
たとえば、手術に伴う場合は、体の治癒反応で1週間程度の腫れで済むことが多いです。
しかし、数週間経っても歯茎の腫れが引かない場合は、拒絶反応の可能性が疑われます。こうしたケースでは、必要に応じてインプラントを撤去し、再手術しなければなりません。
また、時間の経過により拒絶反応が生じたケースでは、インプラント周囲の状態を確認し、周囲を洗浄します。それでも歯茎の腫れが引かない場合は、インプラントを撤去して、新しいインプラントと交換します。
(出典)
1.歯科インプラント治療方針 日本歯科医学会編
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-01.pdf
2.厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」歯科インプラント治療のための Q&A 平成 26 年 3 月 31 日 日本歯科医学会厚生労働省委託事業「歯科保健医療情報収集等事業」 歯科インプラント治療の問題点と課題等 作業班
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/shika_hoken_jouhou/dl/01-02.pdf
<h2>編集部まとめ</h2>
本記事では、インプラント治療の特徴や流れ、拒絶反応の対処法などを紹介しました。
インプラント治療は、失われた歯や組織の代わりに人工歯根を埋め込む治療です。本来の歯が持つ構造や機能を回復させる効果があり、外観的にも綺麗になるため、広く普及しています。
ただし、インプラント治療の成功率(10年後残存率)は92〜95%と高いものの、手術後に拒絶反応を起こす場合があるので注意が必要です。
ちなみに、拒絶反応の原因としては、患者の基礎疾患や生活習慣のほかに、金属アレルギーが挙げられます。
インプラントの素材はチタンが主流ですが、セラミックス素材(ジルコニア)を選べば、金属アレルギーによる拒絶反応を防げます。
少しでも拒絶反応が起こるリスクを減らしたい方は、ぜひこうした対策も取り入れてみてください。